タイのノービザ長期滞在組は、カンボジア南部のココンからタイに戻ることができた。これはタイの出入国管理局が、ココンという穴を開けておいてくれたのか、あついはただの伝達の不徹底とか職員の怠慢だったのかはわからない。タイの国の話という文脈では、当然、後者ということになるのだが、こと出入国に関してはそうもいえないのである。
日本という国なら、一度決められたルールは、どの入国ポイントでも、金太郎飴のように実効される。しかしアジアはそうはいかない。それがアジアの流儀でもあるのだが、最近のタイでは、その裏を読まなくてはいけないようなことがときどきある。
タイの戻ることができたのはいいのだが、彼らには次なる問題が差し迫っていた。1ヵ月後のビザの問題である。なにも知らないような顔をして、再びアランヤプラテートに行くのは、あまりにリスキーだった。ココンは大丈夫だったが、それがいつまで続くという保証もない。
そんなとき、バンコクの南の方からひとつの情報がもたらされたのだった。
「ペナンやコタバルのタイ領事館で、マルチの観光ビザがとれた……」
これまでのタイの日本人に対するビザの流れを追ってみる。まずノービザの滞在期間を30日にした。かれこれ10年以上も前の話である。これでタイ長期滞在組が一気に増えることになる。多くはビザなしで働く日本人だったが、そのなかには、僕が『日本を降りた若者たち』(講談社現代新書)で紹介した「外こもり」組も含まれていた。
その時代がしばらく続いたが、やがて、タイの観光ビザの制限がはじまった。観光ビザで働く人が、2回、3回とビザをとりに行くと、許可される滞在期間が短くなっていったのである。この方策はしだいに厳しさを増していく。日本で観光ビザをとろうとすると、収入証明まで要求された。
これはひとつの道理だった。本来、観光目的でタイを訪れる人の多くは30日も滞在しないのだから、そういわれれば返す言葉はなかった。
そうこうしているうちに、ノービザで滞在する人は、「6ヵ月間で90日以上滞在してはいけない」という
ルールが加わった。
こうしてみると、タイは短期の観光客には訪ねやすい国になってきたが、なにもせずに長期滞在する人には厳しくするという方向で、ビザ制度を整えてきた気がする。
ところがその政策をかなり徹底してきたかと思ったら、今度は、観光ビザを復活させてしまったのである。めぐりめぐって、元の戻ったような感じなのだ。すごろくがひとまわりしたような感覚である。
しかし一連の流れは、タイ独特の揺さぶりともとれなくもない。厳格なルール徹底はしないが、「厳しきなるぞ」という噂が流れるように仕向け、何人かはタイの暮らしを引き上げてしまう。そして適度なところで、ちょっと緩める。これは相当にうまい出入国管理術なのか、その場しのぎの方策の結果なのか。そのあたりが読めないのがタイという国なのだ。
長期滞在組は右往左往し、最終的には筋金入りが残ってきたような感がある。
「そこまで頑張ったから、よしにしようか」
これはやはり優しい国というべきなのだろうか。
【下川からひと言】
最近、マレーシアなどでとれる観光ビザが、また厳しくなってきているという。本当にビザでは振りまわされる国である。
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